「続・宮廷女官ジャクギ」というドラマがある

2011年に中国大陸で大ヒットしたドラマがあります。清朝康熙帝の時代のお話で、タイトルは「宮廷女官ジャクギ」。
現代に生きる歴史好きな平凡な女性、張暁。彼女はある日突然交通事故に合ってしまう。目を覚ますとそこは現代の中国ではなく、300年前の清朝だった。タイムスリップした張暁が、出会ったのは、康熙帝の9人の美しき皇子。そこで現代とのギャップに戸惑いながら、周りに支えられて宮廷女官ジャクギとしての人生を歩んでいく。その中で第4皇子(のちの雍正帝)と第8皇子はジャクギに対し恋愛感情を持ち始め、歴史を知るジャクギは彼らの間で大きく揺れ始める。やがて宮中では康熙帝の跡継ぎ問題が起こり、9人の皇子たちによる王位争いが始まる。歴史は変わるのか、現代には帰れるのか。……というのが、大まかな内容でございます。

……ラブロマンスっていうよりも中国発ネオロマンスって言った方が個人的にはしっくりきますが、確かに面白いです。前半部分のコミカルさは見ていて気持ちのいいものだったし(その分後半が怒濤の展開なのだが)、俳優陣もとてもいい。ニッキー・ウーに、リウ・シーシー、この二人の存在感が素晴らしいですし、なんといっても13皇子のユアン・ホンなんてベストオブ辮髪ですね。最後の34話なんて、もろに泣かせるためにお話作ってるなぁとか思いながらみていたのもいい思い出です。
結末のネタバレをしてしまうと、清王朝でのジャクギは亡くなり、亡くなって張暁の意識は現代に戻る。目覚めた張暁は康熙帝の息子たちの結末をネットで調べる。9、8皇子は獄死。10皇子は乾隆帝になってから釈放。14皇子も軟禁されたまま生涯を終える。13皇子も42歳の若さで亡くなり、やがて4皇子=雍正帝も臨終を迎える。
退院した張暁は、博物館の“清代文物展”を見に行く。ジャクギはいなかったのだろうか。私はそこで存在したのだろうか。その思いで一枚の絵を見つめ、そこで出会ったのは……。というところで終わります。
…これが「宮廷女官ジャクギ」という「タイムスリップした女性とその時代の人物とのラブロマンス」を描いた最高の作品でした。

さて、ここまでが前置きです。


その「宮廷女官ジャクギ」の続編が何とございます。タイトルを「続・宮廷女官ジャクギ 〜輪廻の恋」。
続編なんですが、舞台は清朝から現代の中国になっております。現代に戻ってきた張暁は第四皇子生き写しの男性と出会う。その男性は震天グループという大企業の副会長で……というところからものがたりが始まります。
現代版ジャクギなので、第四皇子役のニッキー・ウーをはじめとして、清朝からのキャストが多々出演しております。それが生き写しか転生です。

私はジャクギ前作のファンで、最後の、綺麗にまとまりつつもこの後の彼らのことを想像させる余地を残しながら終わったところとかが好きなんです。だから、続編が作られると聞いた時は、嬉しいと言うよりも戸惑いの方が多くって。これはこれで綺麗にまとまっているんだから、この後をどうやって作るんかい!?っていう不安もありました。でもあのジャクギの続編なんだから、面白いものとしてまとまっているだろうという期待もあったんです。事実、はじまるまでは結構楽しみにしていましたし。
そんなわけで期待をして10月23日を迎えたわけですが、



……………。


………………。


……………………………。


私、いま、何のドラマ見てるんだろう……?





ジャクギ前作は8皇子と4皇子とのラブロマンスでした。なので、この作品も二人の男性との恋が描かれます。
そんなもんだから途中までは、「大企業! イケメン御曹司! 二人の男子とラブロマンス! その二人の間で揺れるわたし(死語)」という感じです。
使い古されているしチープだけど、まぁ分かる。

しかし。その「大企業! イケメン御曹司! 二人の男子とのラブロマンス!(以下略)」の、その料理の仕方がすさまじい。

何せその中に、その中に、「転生! 記憶喪失! 生き別れの双子の姉! 自殺未遂! 虐待! 二股! 妊娠! 事故死! レイプ! 失踪! 拉致! 親類からの陰謀! 拷問! 転生(またかよ)! ゾンビの如く蘇生! 失明! 夢落ち! ハッピーエンド!」が、間違った方向に全部入っているのだ。何が間違った方向かっていうと、見ていてどんどん「どーでもいい!」っていうか、不愉快になっていくっていうことです。
これは酷い!酷過ぎる!!!
「お前こんな状況なのにこんなこと言うのかよorこいつがこうなってるのにこいつらのこんなん見たくねえよ」、「何でこれがこうなってこうなるわけ!?」、「いや、別にわたしはこいつらでこんなものがたりを見たいわけではない!」が積み重なっていくと、だんだん見ていて辛さを通り越して苛立ちがつのってどうでもよくなる感じ。
何というか、おいしいものを詰め込んで全部ぶち込んでみたら、食材の無駄遣いというのが適切な表現となるような料理が出来上がりました、という感じ。
こんなんだったら出来のいい二次創作を見た方が100万倍マシだよ!

まーまーまー、じゃあストーリーは百歩譲りますよ。とりあえずドラマティックだと思う要素を全部詰め込んでみたんでしょう。それが面白くなかったってだけです。だけど、問題はストーリーじゃない。一番の問題は、清朝では第四皇子だったニッキー・ウーの現代版でのキャラクタ作りですよ。
ニッキーの今作でのポジションは、大企業の副会長で、その会長の息子です。清朝での皇子が大企業の息子になったっていうのは、一応符号でつなげないこともないでしょう。でも、その中身の性質は清朝版と現代版で大分違うです。
ジャクギの第四皇子は、非常にクールです。冷静沈着で、自分の感情はめったに見せないけれど、自分にとって大切だと思った人間は一生守り抜く強さを持ってます。愛した人間に対しては情熱的な一面を見せます。だけど、一方で非情なことも厭わない。いつ動くべきかの時が読める、我慢強さも持った人間です。クールさと情熱。愛情深さと非情。そんな真逆な魅力を持つニッキーに、惹かれる視聴者は多かったのではないでしょうか。
……翻って今回のニッキーはどうでしょうか。ジャクギの続編、第四皇子の生き写し、ということで、今回のニッキ―のキャラクタ造形が気になった人も多いでしょう。そして、あの素敵なニッキーが見られるのではないか、と思った方もおられたでしょう。
その結果がアレです。
……………私はこんなニッキーが見たくてジャクギの続編を見たわけじゃないんだ!!!!と激しく突っ込みたい! こんな、ぴーぴー泣いてるニッキーが見たいわけじゃない! 幼少期に劣等感を抱いていたニッキーが見たいわけじゃない!!こんな、画にならない暗くって辛気臭いニッキーが見たいわけじゃない!!!!もっと素敵でクールで情熱的でおちゃめなニッキーが見たいんだ!!と、心の底から叫びたい!!!
だからこれはすごく、作り手側が慢心から作ったんじゃないのかよ、とすっごい突っ込みたくなるんです。「ジャクギ」という名前が付いているから、それだけで視聴者が釣れるとでも思ったんでしょうか。
だったら大間違いだぞコンチクショウ。

このドラマ、薦められるところが皆無です。万単位のおかねをドブ川に捨てても構わないトゥルーリッチメンなマダムに対しても、「いやー、見ない方がいいよ!?」と言うでしょう。
少なくても、私にとっては「ノーカット完全版発売!? そんなん、全部カットしたいわ!」という、ある意味記憶に残るドラマになりました。
なんでこんなもの見てしまったのだろう。だから私はこういいます。


続なんて見るな!「宮廷女官ジャクギ」、お勧めです!


↑は清朝を舞台にした「宮廷女官ジャクギ」。