遠田潤子「月桃夜」

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
だいぶ空いてしまいましたが、本の感想です。

遠田潤子「月桃夜」新潮文庫nex

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この世の終わりならふたりの全てが許される。奄美の海を漂う少女の元に、隻眼の大鷲が舞い降り、語り始めたある兄妹の物語。親を亡くし、一生を下働きで終える宿命の少年フィエクサと少女サネン。二人は「兄妹」を誓い、 寄り添い合って成長したが、いつしかフィエクサはサネンを妹以上に深く愛し始める。人の道と熱い想いの間に苦しむ二人の結末は――。南島の濃密な空気と甘美な狂おしさに満ちた禁断の恋物語、待望の文庫化。
新潮文庫の紹介文より http://shinchobunko-nex.jp/books/180052.html

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兄と妹の恋ものがたりという今も昔も通じる「少女小説」の世界。そして、読了後の印象は、読むだけでむせ返るほどの甘い花の香りが漂うものがたりだ、ということだ。そのむせ返る感じは息が詰まる感じに似ていて、その切迫感は主にフィエクサを見ていると読み手に伝わってくるものでした。
それもその筈で、理由は2つほど。一つはフィエクサの生い立ちにあって、もう一つは描写の主軸がフィエクサにあること。フィエクサはヒザの生まれで、ある登場人物が「ヒザを産まなきゃいけない女の気持ちが分かるか。母親としてどんなに惨めかわかるのか」と嘆くシーンがある。ヒザは島の中では最下層で、生まれたときから死ぬまで自由はない。母親として、一生自由のないヒザの子どもにしてやれることはないからだ。両親を亡くし、周りから疎まれたヒザの少年の元にやってきたのが、自分よりも弱い存在、父親を亡くしたばかりの少女だった。フィエクサはサネンを自由にしてやると誓い、二人は「兄妹」として寄り添って生きていった。
これだけでフィエクサがサネンに対して深い愛情を抱かずにはいられない要素が詰まっている。だが、フィエクサとサネンは、山の神さまに対して「兄妹」の誓いを立てた。この誓いが最終盤において重要になってくるのだが、だんだんとフィエクサを苦しめていく。誰よりも大切で守りたい妹。そんな妹を深くあいしてしまった。妹だけど血は繋がっていない。血は繋がっていないけどずっと兄妹だと約束をしてしまった。そして自分が愛情を向ける相手はサネン以外存在しない。
そんなフィエクサのもどかしい思いが、濃密な花のにおいになって読み手の喉のまわりに漂ってくるのだ。
この二人がどうなるかはオビを見ると察しがつくかもしれない。濃密な少女小説の流れと、奄美地方の生あたたかいしけり。半ば狂気に彩られた恋ものがたりが読みたい方には是非、是非。


個人的なハイライトシーンは、フィエクサがサネンを押し倒すシーンよりも、山の神さまがフィエクサに裸踊りをさせたシーンです。全然笑えないシーンなんですが、山の神さまがころころ笑うのも酷いなぁとにやにやしながら読んでしまうのです。