小路幸也「札幌アンダーソング」

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北海道は札幌の雪の中で全裸死体が見つかった。若手刑事の仲野久ことキュウは、無駄にイイ男の先輩・根来と捜査に乗り出すが、その死因はあまりにも変態的なもので、2人は「変態の専門家」に協力を仰ぐことに。その人物とは美貌の天才少年・志村春。彼は4代前までの先祖の記憶と知識を持ち、あらゆる真実を導き出せるというのだ。春は変態死体に隠されたメッセージを解くが!?平凡刑事と天才探偵の奇妙な事件簿、開幕! (「BOOK」データベースより)

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作者の小路幸也さんが、北大路公子大先生の「苦手図鑑」の解説をなさっていた+「天才美少年で変態の専門家」という単語で二つ返事のように購入。「出会ったその瞬間にピンときて購入を決める本」「その時に買わなかったけどむずむずと自分の中で残っていた本」というのは私にとってアタリで(今までそれで当たった本は割と多い。アフリカン・ゲーム・カートリッジズもそうだったし、月桃夜、おいしいベランダもそうだった)、今回は後者でした。
で、この本。

変態死体を通して天才二人が間接的にそして挑発的に会話する、もちろん死体が上がるので何かしらの事件性がありそれを二人の刑事が調べるのですが、緊張感があるようなないような。ミステリというよりも「天才美少年がアドバイザー的に事件にかかわっていき、それを解決すべき二人の刑事や美少年の周りの人間があらゆる面でカヴァーする」もので、ストーリーはディープでブラックなネタが多いわりに主人公のキュウちゃんの語り口がほんわりしているので、変態性はあってもそのほわっと感で緩和されている印象があります。
まぁ、「刑事のわりにキュウちゃんの感性が普通」というので語り口がゆるふわな感じは納得できますが、春くんは「4代前の記憶を持ち」「札幌の裏の歴史に通じている」「あらゆる五感が発達している」というハイスペック天才美少年。そしてこの「天才美少年にして変態の専門家」なんですが、この子がとても恐ろし無邪気可愛い。設定盛り過ぎなんでは、と思うんですが、それを差し引いてもカワイイ。こたつでごろごろしてたり「僕は友達なんて必要ないんだよ」と言いながら、「自分は普通じゃない」ことを自覚しつつ家族のことをめっちゃ大事にしていたり。
キュウちゃんの普通な語り口と意外にニュートラルな春くんが、変態事件をライトゆるふわミステリーにしているのかもしれません。

とりあえず1)見た目中坊な美少年(19歳)、2)甘えん坊気質あり、3)女物の服が似合う、4)あらゆる知識を持ち合わせ、4代前までの祖先の記憶を持つ少年が、「うふふ」と無邪気に笑いながら猟奇殺人を眺め見て、「野菜/ケツ/突っ込む」を連呼している姿は、たまらない。
そんな美少年が「野菜/ケツ/突っ込む」を連呼しているのを見たい人には一見の価値はあります。

意外にあたりだったので続編も読みたい。とにかく春くんが超カワイイので、設定もり過ぎでも一巻が「続きます」みたいな感じに中途半端に終わっても許す(苦笑)。