紺野アスタ「尾木花詩希は褪せたセカイで心霊を視る」

紺野アスタ「尾木花詩希は褪せたセカイで心霊を視る」ダッシュエックス文庫

久佐薙卓馬は廃墟と化したデパートの屋上遊園地で、傷だらけの古いカメラを持った不思議な少女―尾木花詩希と出逢う。卓馬の通う高校で“心霊写真を撮ってる変わった女”と噂される詩希に「屋上遊園地に出るといわれる“観覧車の花子さん”を撮ってほしい」と依頼するのだが、「幽霊なんていない」と取り合ってもらえない。しかし、諦めきれない卓馬は写真部を訪ね、詩希を捜そうとするのだが、彼女がいるのは“心霊写真部”だと教えられて…。卓馬が逢いたいと願う“観覧車の花子さん”を、詩希は写すことができるのか―。少年の想いが少女の傷を癒す、優しく切ない青春譚。

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この小説を読んで、一番残ったのが下の二つの言葉。
「私はキレイの欠片を映したい」
「写真は嘘つきだ。けど、どうしようもなく正直者でもある」
……なんという写真愛に満ち溢れた言葉!! というこの二文字だけでもくらっと来ました。写真を題材にしたちょいと苦めの青春譚。ちょいとミステリ風味あり。風味なのは少年少女の青春譚に重きが置かれているからかな、と思ったけれど、写真が主役なのでこれはこれ。むしろ、風味であるから主役である写真の邪魔をしていないバランスが凄く好きだ。意外に変……に見せかけて変に見られることを気にしているカメラ少女の詩希が可愛かったり意外に誠実……のように見せかけて割と自分の都合で詩希を振り回している卓馬とのやり取りが、ちぐはぐでかわいらしく、なんというかほろ苦い。その苦さを残しつつ、少しずつ、少しずつ変わっていく女の子を見るのは本当に至上の喜びです。
意外に最近のラノベでは少ないのかなぁ、こういう青春もの。ビターな青春ものが好きな人と、野村美月の「文学少女」シリーズが好きな方にはぜひともお勧めしたい。