篠原美希「ヴァチカン図書館の裏蔵書」

篠原美希「ヴァチカン図書館の裏蔵書」新潮文庫nex

厳戒区域の秘密文書に、聖地を揺るがす闇が── ローマ大学に留学中の玄須 聖人は、教授の依頼でヴァチカン秘密記録保管所を訪れ、企画展に向けて幻の資料を探すことに。その頃、ドイツとオーストリア魔女狩りを彷彿とさせる猟奇殺人が起こる。悪魔信仰者の存在がちらつくなか、疑惑の目は教皇庁にも向けられる。図書館の膨大な蔵書に謎を解く鍵があると調べ始める聖人と神父のマリク。だが、事件の真相は意外なところに……
http://www.shinchosha.co.jp/book/180105/

* * *

まず、この表紙のカワイイ可愛い青年が主人公で27歳だということを重々に熟知してから読み進めていただきい。
そしてずっと読んでいると「こいつハタチぐらいじゃねえのー?」と思うぐらい可愛らしく、そこで若干の戸惑いも覚え、だんだんと「こんなかわいいアラサーおるか!!!」と突っ込みたくなること請け合いなのですとだけ最初に言っておきます。そしてこのカワイイアラサーがローマ大学の博士課程という設定上は超絶優秀なのですが、その優秀さを本人は作中でまっったく発揮せず、むしろ本人はぽやぽやしてふわふわしているうちに物語が進んでいき(彼が持つ能力的なものは多々発揮されました)、問題を提唱し展開し解決していったのはダビデ像のごとき美貌を持つ切れ味鋭き(そして戦闘能力も持ち合わせた)マリク神父と、行動力と洞察力を持った主人公のほぼ保護者になっている新聞記者である斉木兄貴(兄貴というのはあまり比喩ではなく、斉木と主人公の関係は個人的にリリアン女学園のスールのような関係だと踏んでいる)で、主人公はぽやぽやしているうちに犯人に拉致られて監禁されて死にかけていたところを颯爽と現れたマリクに助けられ、ちょ、お前!!wwwと突っ込みたくなるんですが、それももうマリク神父が優しくてかっこいいし主人公が可愛いからもう許す……というとりとめのないことはともかく。
「ヴァチカンに保存されている文書」「ドイツ・オーストリアで現代の魔女狩りのような事件が発覚」「ベナンダンディ」「悪魔信仰」等々、カトリックキリスト教文化に興味を持つ方には非常にそそられるキーワードが沢山あり、キリスト教やヴァチカンの保存文書に関する知識等はかなり楽しんで読めます。文章がさらっとしているので、その分難解に感じる暇がなく受けれられる、というのもある気がします。

で、何がこれツボだったかっていうと、主人公聖人と、なし崩し的に聖人の保護者になったマリク神父。の関係。
地の文で聖人のことをなんて書いてあるって、「小鹿のようにしなやかな体つきをもちながら動きがどこか子パンダのような愛嬌がある青年」とあるんですよ。また物語の終盤、斉木が「こいつの取り柄といえば男にしてはきれいな肌」と、もはや27歳の青年に対しての褒め言葉になっていない褒め言葉で書いてあるのである。いいぞもっとやれ。
そしてマリク神父である。
このマリク神父が「ダビデ像のごとき美貌の持ち主」であり「ヴァチカンでの問題解決役」でもある人物でもあるのですが、神父であるが故キリスト教社会の中でずっと生きてきた人間です。また、物語開始から聖人はマリクにとって「押し付けられたもの」でありました。だから聖人に対して厳しめに関わってきましたが、物語の終盤のマリクの一言でこの二人の関係は変わる。

「世界に一人ぐらい、私を神父として扱わない人間がいてくれてもいいのではないかと思っています」
……すみません、このセリフにニヤニヤが止まりませんでしたよ!!!!!!!


そんなわけで私は聖人と聖人の「友達」になったダビデことマリク神父のやりとり及び斉木兄貴の過保護っぷりがもっと読みたいので新潮文庫nex様続編お願いいたします。だってこれ、まだ聖人が何故夢を見るのか、とか解決されてないよ!何か登場人物こんな感じですっていう紹介で終わっちゃってるんだもん! あと2冊は最低でも出ないと困るよ!!!!!!!!!続刊でなかったら、私のこの興奮をどう処理してくれるんだ!!!!!!!お願いだ新潮社nex!!!!!!