遠田潤子「蓮の数式」

こちらのブログでは今年初めてなので、あけましておめでとうございます今年もよろしくお願いいたします。
今年も相変わらず読書感想を中心にこのブログを進めていこうかと思います。
それでは今年の一冊目です。

遠田潤子「蓮の数式」中公文庫

婚家から虐げられ孤立する女が出会ったのは、自らの生い立ちと算数障害に苦しむ男。愛を忘れた女と愛を知らない男が向かう先には、何が待っているのか――。
(出版社の紹介文より)
http://www.chuko.co.jp/bunko/2018/01/206515.html

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実は書籍化された遠田潤子さんの作品を、2018年2月12日現在、最新作の「オブリヴィオン」を除いて全て読んでいる。「月桃夜」「雪の鉄樹」を読み、その後の「アンチェルの蝶」で、どっぷりと「暗い。重い。くどい」の沼にはめられて以来、遠田さんの作品のファンになってしまったのである。

で、この「蓮の数式」。
主人公は35歳のそろばん塾講師の女性、千穂。天涯孤独な彼女は大阪の北畠にある立派な家に嫁いだが、「子供が産めない」という理由だけで義母からは虐げられ、子どもを強く望む旦那からは過酷な不妊治療と屈辱的なセックスを強要されている。
開始20ページで、千穂と旦那の間で何が起こったかを文章化してみよう。
1)結婚記念日に実母のお気に入りの料亭→「君もうまかったやろ?」
2)自分が起こした人身事故を千穂に擦り付ける→「金で解決してこい」
3)事故った相手を逃がしたヨメに一言→「役立たずにもほどがある」
4)夜、性欲が激しい旦那→「一発やらせろ」
5)すべてが終わった後の旦那の一言「君は最高の嫁や」

……。

何だこの地獄。
開始20ぺージで「おげえええええええええええ」って吐きそうな気分になりながら(実際には吐いておりませんが)小説読んだの、生まれて初めてだよ。この開始、全体的にクソほど最悪なんですが、最後の「君は最高の嫁や」とか、もう鼻先めがけて正拳突きしたくなるよね!(ついでにこの旦那、読み進めていくうちにただ単に性欲が強いのとかなりの変態性を持っている且つ高圧的キチガイという最悪な性質が描かれてく)
そんな千穂が出会ったのが、旦那が轢いた相手・高山透。彼は「算学障害(ディスカリキュリア)」という生まれながらの障害を持っていた。この障害は眼には見えず、またあまり認識もされていないので、そういう「いびつさ」が社会的に受け入れられたりはしない。再び透と出会った千穂は算学障害であることを見抜き、そろばんの個人指導を買って出る。少しずつそろばんを教わり、教える日々が続くが、旦那は千穂が浮気をしているのではないかと疑い始める。浮気を疑われた千穂はこれまでの不満をすべて吐き出し、義母を殺して透のもとに走る。そして二人の逃避行が始まるのだった。しかし透には算学障害以外に、自らの生い立ちと過去にも苦しみがあり……。
……というのが、物語の始まり。

この物語は主人公の千穂から見ると「結婚生活に疲れ、義母を殺して逃げた女の逃避行」である。そして、もう一人の主人公、新藤賢治に焦点を当てると、「13年前に妻を殺された理由を知るために、かつて世話をした少年を求めて行動する」老人の物語になっている。
そこに千穂の逃避行の相手である「高山透」の過去、賢治が追う「大西麗」がかつて起こした事件が息が詰まる程濃密に絡まっていく。
物語の最後に。「このまま逃がすことが出来たらどんなにいいだろう」「こんなに罪を重ねていても、まだ自分はどうにかしてやりたいと思ってしまう」と、賢治の目線で書かれた文章がある。
最初は「高山透」という人物が、ディスカリキュリアではあるけれど、ただ手が早くて無口で、少し薄気味悪い人物のように見える。だけどだんだん読み進めるうちに、透に対して、私はこう思い始めてまう。「お前は死体じゃない!もっと熱くなれよ!!」そして、賢治と同じように、「こいつをなんとかしてやりたい」「こいつが救われてほしい」と。
でも彼が救われるためには、法が変わらなくてはならない。そして彼が助かるために変えられる法は、未来永劫存在しないと断言できる。
だから苦しく、切なさを感じるのかもしれないし、最後の千穂の決断が「後味わりぃいいい!!!!!」と思うのかもしれない。


万人に勧められるか、と言われたらそれはノー。ぶっちゃけ遠田さんの作品は「月桃夜」以外は勧めづらい。(「冬雷」は「月桃夜」が好きな方は大丈夫かな、と思うぐらい)
だけど、私はいろんな人に「遠田さんの作品を読んでほしい」と思ってしまうのだ。
どうか透が、あれ以上に美しい蓮の花を見られますように。

読まれる際は自己責任で。
「蓮の数式」、あえていろんな方にお勧め致します。