深見真「アフリカン・ゲーム・カートリッジズ」

フカミンのブログを見ていたら嬉しい悲鳴。
何と、深見真初期の大傑作「アフリカン・ゲーム・カートリッジズ」が電子書籍として復活していた。角川文庫版が長らく絶版状態だったのでこれは本当にうれしい。
私は今まで何となく電子書籍アンチだったけど、これを聞いたら一気にありがたみが分かってしまった。紙媒体で売れなくなったからと言って絶版されたものが買えるのは嬉しいです。


深見真「アフリカン・ゲーム・カートリッジズ」角川文庫

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何もない空間から銃を生み出す「銃使い」。1万人から1人が発生する銃使いは、銃の携帯が法で禁じられるこの国では、存在そのものが違法であった―。銃使いによる立て篭もり事件に巻き込まれた高校生・矢崎リュウザは、激烈な銃撃戦の中、自らも銃使いとして覚醒してしまう。国家特別銃取締局の攻撃に追い詰められたリュウザを救ったのは、銃使いたちによるレジスタンス組織、アフリカン・ゲーム・カートリッジズだった。
「BOOK」データベースより

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いやあ、私はこの小説、本当に深見先生の「初期」の大傑作だと思うんです。だってこの小説に、深見先生の大好きなものと書きたいものが全て詰まっていて、それで迫力があって面白いんですよ。ついでに言えばこの小説、その「大好きなもの」と「本当に書きたいもの」しか書いてないんですよ。だって中身は「カンフー」「銃撃戦」「青臭さ」「もどかしさ」、そして「男同士のあまりにもプラトニックすぎる愛情」と「レズビアン同士のセックス」。
ここに挙げた単語、割と私は深見先生の作品を読ませて頂いていますが、結構の数の作品に共通しているものです。ヤングガン・カルナバルしかり、GENZEしかり、僕の学校の暗殺部しかり、疾走する思春期のパラべラムしかり……。
……これだけ見れば昔、山本卓先生がおっしゃっていた「(深見先生は)作家になってなかったら犯罪者になっていたと思う」「誰かこいつを逮捕してくれ」っていう言葉が、こと深見先生に対しては至上の褒め言葉であることが分かりますね!
概要は、上の単語とBOOKデータさんのあらすじを読んでいただければ分かるんですが、それだけだとちょっと味気ないので。
近未来の日本。一万人に一人が覚醒するという「銃使い」は、何もない所から銃を生み出す能力を持った人間。「銃使いになるには三つの要素が必要」であり、主人公の竜座はその「三つの要素」を満たしてしまったので「銃使い」として覚醒してしまう。銃使いは日本の法では「GEA(国家銃取締局)」によって即抹殺か実験用にされるかの末路しかない。追われる立場になった竜座を救ったのは山本山茶花という、グラマラスな美女。山茶花は銃使い達のレジスタンス組織「アフリカン・ゲーム・カートリッジズ」のボスだった。
……まぁ、このあらすじの時点で「何で何もない所から生み出すのが銃なんだよ!」と突っ込まれる方もいらっしゃるかもしれないんですが、そんなことはどーでもいいのです。おはなし自体が「銃を生み出す人間」を軸にしているからいいのです。もっとぶっちゃければ、そんなのは深見先生が作者になった時点で、生み出すのが銃でオールオーケーなのです! 補足すればGEAは本当に、銃使いを始末もしくは捕縛する為にあるような組織で、その権限はこと銃使いに対しては結構高い。だから銃使いだけではなく、公安とも険悪な関係になっています。
こんな内容なので、よくも悪くもバランスが悪く、さらに結構濃密なエロ、非常にバイオレンスなシーン、行き過ぎた男尊女卑の思想、バンバン出てくる人死のシーンなど、「ブラッドバス」以上に好き嫌いがはっきりと分かれる作品だとは思うんですが、読んだ中で物語上いくつか存在するひかる部分を見つけ、それを魅力的だと思った人間にこの作品がかけがえのない一冊になるのではないか、とえらっそうなことを言ってみます。私は竜座の成長、九鬼との最高の恋愛、そして、山茶花の開き直りです。
ただ、これは深見先生の欠点になりうる長所でもあるんですが、確かに濡れ場は濃い上にやってることはすさまじいんですが、そこにエロティックさを喚起させるような文章ではないんですよね。そこはまぁ、官能小説ではないのでと言っておきます。
非常に青臭く、若々しく、しかし猛々しさに満ち満ちた深見真の原点であり、「初期」の傑作。