名作は色あせない ――定金伸治「ジハード」星海社より再版!

今日知ったニュース。
定金伸治のデビュー作でもある「ジハード」が、なんと1月9日に星海社文庫から1巻が再版されていた。おそらくこれから残りの5巻が刊行されることだろう。

表紙のエルシードがカワイイ。
エルシードはぼいんな山根和利版と少女漫画な芝美奈子版がいるけど、この星海社の表紙のエルシードが一番わたしのイメージに近いです。


「ジハード」は、90年代にジャンプJブックスで刊行された定金伸治のデビュー作だ。Jブックス版は全11巻、集英社文庫版は全6巻。
2001年に、9.11があり、イスラムが注目されるようになった背景からこの「ジハード」が一般文芸版として03年に集英社文庫から再刊行されたというのは乙一の談だが、長らくこの集英社文庫版も絶版状態になっていた。
それがこのたび、講談社系列の星海社から、装いも新たに再版されることとなった。
これが嬉しくない筈がない。
本当に面白いものは、時代も出版社も越えるのだ。



おそそ10年以上の歳月をかけて執筆されたこの話は、12世紀末、第三回十字軍とイスラム側の戦いを描いている。イスラム側に身を投じた西洋人の青年、ヴァレリーを主人公に据え置き、時にイスラムを導く智将として、時にサラーフ・アッディーンの義妹エルシードに頭の上がらない人物として、そして時に、イエスの姿と重なりながら物語が展開していく。定金伸治のオリジナルキャラクターが魅力的なのは当たり前として、リチャード獅子心王サラディン等の第三回十字軍での歴史上の主要人物のみならず、当時に活躍した架空の人物、ロビン・フッド、そしてウィルフレッド・アイヴァンホーなどと交えて、虚構と史実が混ざり合ったその時代のオールスターが集結したかのような豪華さも見せる。特に魅力的なのが主人公の一人である王妹エルシードで、少年のようなかわいらしさを持つ20代の女性であり、素手で数本の剣をへし折るという作中での最強人物の一人だ。
そしてこの物語のキャラクタたちを、おおきな物語のなかで生き生きと「生かせて」おり、そしてこの物語を動かしているのが、まぎれもないその時代を「生きた」キャラクタたちなのだ。


歴史小説にしては軽いかもしれない。ファンタジーにしては重いだろう。
だが、軽くも重くもさせない、絶妙なものがたりの均衡と生きたキャラクタ達が、第三回十字軍という重い歴史を、最高のエンターテイメントにさせているのだ。


この機会に読んでいない方は、是非読んでいただきたい。本当に本当に面白いから。


………ところで星海社版に乙一による「解説になっていない」解説はついているのだろうか。集英社文庫版では乙一が全6巻すべてを解説するという、おそらく史上初めての「解説の連載」をしているので、それも必見です。ネタ的な意味で。