アストル・ピアソラ考


私の好きな作曲家の一人で、アルゼンチンタンゴの先駆者であるアストル・ピアソラがいるのですが、ピアソラという存在を知ったのもきっかけもフィギュアスケートでした。そういうわけで、今日はピアソラについて考えてみる。来年生誕100年だしねー。勿論私の事なので、フィギュアスケートを交えてですwww
題して「ピアソラは『タンゴ』として表現すべきか否か」
※この項目は、あくまでワタクシの主観と印象で書いています。ですので「ちげえんだよおお!」という意見も絶賛聞きます。
※かなり長い、かなりクドい、かなりキモイことになっていますので閲覧の際は注意です。動画貼りも大量にあります。


先ずはこちらをどうぞ。

高橋大輔選手の「ブエノスアイレスの四季」。2011年四大陸での演技です。本当は全日本の時のが良かったんですが。。。
どうでもいいんですが、テレビでアナウンサーがやったらと「ブエノスアイレスの冬」と言いますが、大ちゃんの編曲だと「冬」よりも「春」の方が多いのです。ちょっとした訂正をば。
SPのマンボの方がインパクトが強かったからかこのプログラムがあんまり話題になっていないような気がしますが、私は「マンボ」よりもこっちの方が好きなのです。また聞きしただけなので耳半分で聞いてほしいのですけれど、振り付け師のパスカーレ・カメレンゴが「タンゴの苦悩」を表現してほしい、と言ったとか。女性と共に踊る、というよりもフロアダンサーがこれでもかとステップを見せつける感じもします。竹中直人でShall we DANCE? みたいな(爆笑)。


で、こちらをどうぞ。

ロシアのセルゲイ・ヴォロノフ選手の、ピアソラの「タンゴ・セレクション」。フリーでのパーソナルベストを出した、08年ヨーロッパ選手権での演技。曲はブエノスアイレスの秋、春、天使の死の三曲。
私はヴォロノフ君を窓口にしてピアソラという作曲家を知ったのですが……。
もしヴォロノフ君のこのプログラムが「タンゴではないけれども、音楽を表現した何か」だと思えば、情熱的で普通にイイプログラムだと思うんです。08ワールドで、このプログラムを見た樋口豊さんは「音楽を表現する、という先天的な能力はすごいありますね」とおっしゃっていました。
ですがWFSの記事で、「このタンゴのプログラムでヴォロノフに大人の色気が〜」というくだりがあったのですけれど、、「色気」の部分でちょっと首をかしげてしまった。色気、というか、色気、というか、うーん。
プログラム自体は良いのに、「タンゴ」として見ていくのに、何かが足りない。すっごい気になってずーっと見ていって、あっ! と気がついたこと。
「色気」がないんじゃない。
「甘さ」が足りないんだ。「女の影」がないんだ!!!
その「女の影」の欠如した部分が垣間見えた一瞬がありました。09年にロシアナショナルを2連覇した時のインタビューで、こんなQ&Aがあったのです。よく行くブログ様を引用させていただきます。


Q.タンゴというのは二人のためのダンス、愛のダンスですよね。あなたは誰かに自分の想いを告白しているのですか?

A.特定の女の子に向けてではありません。もちろん、僕は氷の上で自分の感情を表現します。トリプルアクセルで転倒せずに済んだ時なら、それは十分に美しく見えるでしょうね。

<タンゴは女性のために>
http://akoako.at.webry.info/200812/article_18.html
ロシア語自習室様


確かに、演技する時に特定の女の子の事を考えて滑る必要は、私はないと思います。けれどね、自分自身が「タンゴ」と言っていて、だけどズブの素人である人間にプログラム自体が「これはタンゴではない」と思わせてしまったら、それは「タンゴの表現」としては失敗なんじゃないのか……? でも、このヴォロノフ君曰く「氷の上で自分の感情を表現」と言った部分があった演技もあったのです。それがこのユーロでもあるんじゃないかなーと思います。個人的には、ジャンプミスも多かったですけれども09ワールドも好きです。最後のステップに迫力があって(ヤケクソ、というなかれ)。
結構文句たらたら言っているヴォロノフ君のタンゴプロですが、私自身はこのプログラム、かなり好きです。というか、割とヴォロノフ君のプログラムは外れがないかな。
でもまぁ、一番好きなのはコレ。ピアソラとは外れますが。バンクーバーシーズンのフリー、「シンドラーのリスト

09年のカップオブチャイナ。クワドが美しい。実をいうとこのプロ、バンクーバーシーズンで男子シングルプロで私の中で3本指に入るプロなのです。(ちなみに残りは、大ちゃんの「道」とアボットの「オルガン」)

私見なんですけれども、ロシアスケーターでのヴォロノフ君って、ウルマノフ→アブト→と来た、ノーブルで品のあるスケートの系譜のような気がするんですけれどもどうでしょう。ボロデュリンもそのような。何と言うか、ヤグディンプルシェンコを見ても「正統派ロシア!」という気がしなかったのですが(最早ヤグディンは「ヤグディン」、プルシェンコは「プルシェンコ」というカテゴリー。ある意味「宇宙人」という系譜。恐らくそれを引き継ぐのがガチンスキー)、何となくヴォロノフ君は「正統派ロシア!」というそれを受け継いでいるような気がするなぁと。先輩二人に比べるとスピードが難点なのがあれですけれども。
だからもしかすると、「アルゼンチンタンゴ」という、色気と粘りとねちっこさが必要とするダンスよりも、ヴォロノフ君の場合、ノーブルな部分があると思うので、「コンチネンタルタンゴ」の方が似合っていたような気もします。真央ちゃんの二つのタンゴも、色気というよりも品があるタンゴだったので。。例えば、真央ちゃんの「シュニトケのタンゴ」は、多分シュニトケがロシアンナイズした「コンチネンタルタンゴ」なんじゃないかなーと勝手に想像。そう言えば真央ちゃんのこのタンゴは、ティホノフさんが気に入ってたみたいですね。
まーもっと個人的なこと言っちゃいますと「正統派ろしあんに必要以上の色気は不要!」とか思っちゃったりも……。


まぁ、大ちゃんとヴォロノフ君だけだけではなく、他の選手のプログラムも。

せくはランビ、雪山のシマウマ、赤猫、スピンマスター、などいろんな異名を持つスイスのステファン・ランビエールの「ブエノスアイレスの秋」。
本当にランビエールの動きって、一つ一つがすっごい洗練されていて綺麗。でも彼はどの曲でも「ランビエールの世界」という、一つの世界にしてしまうところが凄い。このピアソラでも「ランビの世界」で、それでいて「タンゴ」だなぁと思うのです。



永遠の(お菓子の国の)王子こと、カナダのジェフリー・バトルのSP「アディオス・ノニーノ」。音源自体がシンプルなものですが、このピアノのみの中にバトルのスケーティングの美しさが込められているなぁーと思うのです。見た当時は「スケーティングがうまい選手」というのが分からなかったので、「このプロどの辺がいいんだろう……」と思ってしまった不届きものが通りますwwwウィルソンスマンwwww
「タンゴ」ではありませんが、絶品の「アディオス・ノニーノ」。



「勇名トラ」こと、トマシュ・ベルネル選手のピアソラ。ジャンプミスは目をつぶっておくれ、な、ロスワールドでの演技。オブリビオン→ラ・クンパルシータ→アディオス・ノニーノ→リベルタンゴという詰め合わせ。トマシュって、マイケル・ジャクソンを滑った時も思ったんですけれども、とっても音楽を感じるセンスがいいなぁと思うのです。それが「タンゴ」でも十二分に生きている気がします。
ですけれどこのタンゴ、愛嬌、と言いますか、いい意味で見ていると笑ってくるのは何故だろう。



アメリカのジェレミー・アボットピアソラブエノスアイレスの四季で、「冬」から始まって「春」で終わるのであってるかな? もしかすると「夏」も入っているかも。「夏」あんまり聞いたことがないから分かんないけれど。いやー、このプロは数回見たけれど、実は08カップオブチャイナでの演技は始めて。だけど、これを見過ごしていた自分に殴りたい! この演技があったからこそ、影薄脱出、ではなく、世界のトップランカーに名乗りを挙げたんですよ!!
このタンゴを滑る前シーズン(07−08)のアボットのプログラムは、ワルツメドレー。トム・ディクソンが振り付けた振り付けを、華やかにワルツを踊る、のではなく、陰のあるワルツを優雅に滑る、という感じでした。一人アイスダンスを見ている様な、滑った影は女性がそっと寄り添っているような、そんな不思議な気分になったプログラムでした。ようつべで発見できなかったので、ニコニコ動画でどうぞ。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9593876
ジャンプミスは目をつぶってください。SP12位→フリー4位→総合4位の怒涛の巻き返しをした07年NHK杯の演技です。このプロ、アボにしかできんww
で、アボットピアソラの話に戻しますと、ある意味でワルツの「陰」の部分を踏襲している感じがします。ワタクシの友人で「ピアソラを聞くと、何となくもの悲しい気分になる」と言っていた人がいましたが、ピアソラの楽曲自体が持つ「哀愁」が、もしかするとアボットにぴったりだったのかな、と思ったりもします。



女子で大好きなのは、ラウラ・レピストのこれ

10年トリノ世界選手権FS「ゲイリー・バートン、メドレー」(アディオス・ノニーノ+フーガ・イ・ミステリオ)
後半ジャンプのパンクがひっじょうに惜しいのですが、大好きなプログラム。特に好きなのが、キャノンボールスピンとレイバックスピンの、スピンの二連続と、サーキュラーステップ。(サーキュラーは八木沼さんからダメだしされてたが……)
早く帰ってきてほしい選手の一人。でも怪我はゆっくり直してね。


鈴木明子さんも素敵なピアソラを滑っていました。

あっこ姐さん、といえば「リベルタンゴ」だったり「ファイアーダンス」だったり「タンゴ・ジェラシー」だったり、情熱系のダンスを踊らせて本当に光る選手だと思うのです。そんなあっこ姐さんは、フィギュアスケーターの中でも屈指の「タンゴ」の名手です。高橋大輔の「eye」でお馴染みの、宮本賢二の振り付け。これはアイスショーでの。


あと印象的だったのは、04年ブタベストユーロでのユリア・セベスチェン
地元で優勝した時の演技。絶好調の時のユリアの演技、とってもパワフルで好きです。去年引退してしまったけれど、ジャパンオープンに来てくれた時は本当に嬉しかったです。振り付けはモロゾフ。「リベルタンゴ」の時のステップの迫力は必見です。彼女もパワフルで、だけど優雅さを兼ねそろえたスケーターで、私は本当に好きです。


最近ではジュニアっ子たちが結構ピアソラ使うようになってきたかな。田中刑事君とか庄司理紗ちゃんとか。両方ミヤケンプロですな。

ジュニアっ子たちのタンゴでひとつ。庄司理紗ちゃんの「リベルタンゴ」を挙げておきます。

全日本の「リベルタンゴ」が一番良かったので。。ミヤケンは「魅せる」プロがうまいですね。
デカ君のストイックな色気がある「ヴィオレンタンゴ」も中々いいのですが。。


で、ここまで長ったらしく動画を貼りネチネチ何かを言ってきた理由、と言いますと、ピアソラを「タンゴ」として表現するかどうか、というのは、少なくともフィギュアスケートでは「音源とその人による」ものだと思うのですよ。ようするに、「音楽」と「プログラムの内容」と「選手自身の表現」と「選手の内側にあるもの」が破綻しなければいいのです。リベルタンゴアメリタンゴ、などのはっきりとした「タンゴ」のモチーフがあれば話はべつですけれども。
例えば、動画で挙げたバトルの「アディオス・ノニーノ」ですけれども、少なくともワタクシにとって、バトルのスケーティングや表現が十二分に堪能できる鼻血ものプロになっているんです。セカンドマークが高いも頷けます。これを無理に「タンゴ」のように表現するような必要性、というものを感じますでしょうかや? これは、「ジェフリー・バトルのタンゴ」ではなく、「ジェフリー・バトルのアディオス・ノニーノ」なのです。
難しいのは「ブエノスアイレスの四季」シリーズでけれど、これこそ選手の個性がもろに出ますね。ランビとアボットと大ちゃんとヴォロノフ君の「四季」は全然違う、というか、見る人間の感性によって「これがいい」というのが決まる気がします。私はまぁ、全部好きですけれど。
あとびっくりしたことに、動画に挙げた選手はセカンドマークのIN(音楽解釈)の部分が高い選手が多い。大ちゃんやランビはさることながら、特筆するのはレピストアボット。二人ともバンクーバーのフリーでは、他の部分が7点台でもINの部分で8点台をジャッジからもらっています。特にアボットなんかミスが多かったにも関わらず、PCSだけ見ると6位だからなー(総合は9位)。


フィギュアでピアソラ、と言ったらもうスタンダードで、1シーズンに必ず誰かは滑っていると言っても過言ではないです。だからこそある意味、セカンドマークがどれだけ出るか、真の「表現」というものが出来ているか、音楽を自分の中に取り入れられるか、というのが結構問われる気がします。まぁ、どんな音楽でもそれはあるのだろうけれど。音楽理解が中途半端だとピアソラは逆に敷居が高くなってしまうのかな、とも思います。
今季も誰かが滑るみたいなので、どこがどう違うかとか見ると面白いかもです。


ちなみにワタクシは動画を張り付けた中で誰に一票入れるか? と言われたら、勿論ヴォロノフ君の「色気のないタンゴ」に一票を入れます。(時点はアボットとランビ)
それは何故か? それは、本人がタンゴだと言っている割にプログラム自体はあんまりタンゴに見えないけれども、ヴォロノフ君の「音楽を表現する能力」によって、「セルゲイ・ヴォロノフの甘くないアストル・ピアソラ」にまで昇華されているように筆者には見えるからだ! ここまでノー甘さなのもアリです。
………いや、ワタクシ、このプログラム、最初から「タンゴ」として見ていなかったような気がしています。「音楽を表現した何か」だよね。きっと。


ピアソラについて書いてみる、と言った割に、案の定いつも通りのスケートについて語ったグダグダ日記にしかならなかったww