深見真「ブラッド・バス」

久しぶりにブログ更新。読んだ本の感想でも。

深見真「ブラッドバス」/徳間文庫

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入江は自衛隊を一時的に退官し、傭兵として戦場に送り込まれた。だがチームは入江以外戦死。帰国を命じられた入江は自衛隊の復帰の連絡を待っていた。そんなとき、親友の坂爪から「助けてくれ」とメールが届く。坂爪は広域暴力団司馬組の若頭補佐。中国で紀雪(ジー・シュエ)という女と出会い、惚れた。坂爪は組から足を洗い紀雪と結婚をし、中国で暮らしている。幸せな、はずだった。返事は来ない。入江は親友の助けに答えるため中国へ向かった!

徳間書店の紹介文より引用
http://www.tokuma.jp/bookinfo/9784198938444

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深見先生がハードカバー版発売当初にブログで「現時点で、一番気に入っているのはこの本かもしれません」とおっしゃっていた一冊。いつか読もう、いつか読もうと考えて、もうハードカバーの発売から3年が経過してしまっていた。そんなわけで文庫版で読了。この表紙がまたいいですね。銃を持った骨。そして秀逸なオビ「これは殺戮事典だ」と、実に的を射た推薦文。背景が赤の表紙に、黒い帯。イラストといい、センスのいい装丁です。
実際、深見真の作品は人死が出てない本の方が少ない(実際に「僕の学校の暗殺部」の1巻のあとがきでは、「シークレット・ハニー」を書き上げるまで、人死が出ていない本がなかったと書いている)のですが、この「ブラッドバス」の人死量はそれまでの作品から見ても群を抜いている。先ず登場人物から見て陸自の精鋭に元極道。チャイニーズマフィアに元傭兵。中国の武警に謎の武器商人。これらが中国の片田舎に集まっていて、内容はガンアクション、格闘、拷問に人間スプラッタ、火炎放射器に……。この辺までにしておきます。とにかく築かれた人肉の山、吐き出された空薬莢の量が半端ありません。
物語は、陸自の精鋭と元極道の二人の友情が、中国の片田舎をとんでもない(上を読んでいただけるとどんなもんかが想像つくのでは)ことになる……という感じ。
主人公は陸自の精鋭の入江公威。彼の名前にはものがたりの終盤で色々触れられるのですが、彼は作中で「俺は戦う犬なんだ」というように、戦いと親友との友情以外は、何も持っていないといっても過言ではない。彼の欠けようについて、親友の坂爪は、入江の名前と共に言及しますが、この入江の「欠け用」がものがたり上での入江公威というキャラクターをなんとも言えずに魅力的なものとして描き出しているように見えた。「――俺は戦う犬なんだ。犬が喜ぶように、次の骨を遠くに投げてくれ」地の文に現れた入江の内情。こんな切実な言葉は、「戦い」に身を置きその緊張感を一種の恍惚として捉えている人間でしか吐けないだろう。
その入江の親友が、元極道の坂爪昇平。坂爪と入江は中学の頃からの付き合いで、その高校時代の凄まじさはものがたりの入り口でよく描かれている。色々いかれているエピソードだが、そのエピソードがあってこの二人の「友情」が確固たるものにされている。その友情の強さは、暴力と抗争の渦に巻き込まれ、そして周りを巻き込んでしまう。
あまりに暴力的な力を持つ二人だが、完璧に対照的な所がある。入江については本人のありようを読んでいただければ分かるとして、坂爪については彼の妻になる紀雪が語っている。「彼には壁がある。その壁が、彼を優しい人間にしている」。実際に坂爪は親友の為に高校時代、あることを起こすのだが、彼はそのことに対しては爽やかに笑っている。その時点で坂爪というキャラクタも「大切なもののためなら、何でも出来る」人間であり、そのありようが欠けているように見えて、愛情のある人間として成立しているのだ。
そんなわけでブラットバスですが、もろ手を上げて色んな方におススメです!と言い切れるような内容の作品ではないということは疑いようがないですが、それでも良作であることには変わりありません。たまには血が沸騰して逆流しそうな作品を読みたい方、血に飢えた漢たちの闘いが見たい方。そして、あまりにも暴力的でも、自分が欲しても手に入らない「何かを動かす力」を目の当たりにしたい方には是非読んで頂きたい作品。
余談ですが、個人的には坂爪の弟分の千石が、坂爪に「惚れる」経緯をもう少し詳しく読みたい気がしました。が、これを詳細に書くと深見先生のことだから別の作品になってしまうんだろーなぁ、ということも考えてしまいました。この作品にはこのぐらいの塩梅がいいのかもしれませんね。